ミリタリーウォッチを語れる男になろう。歴史とともに知る10の名門ブランド
戦場における実用品として誕生したミリタリーウォッチ。そのルーツを知れば、愛用の1本にもっと愛着がわいてくるはずだ。その歴史に迫りつつ、人気ブランドを掘り下げる。明日から“ミリタリーウォッチを語れる男”になろう
我々が何気なく腕にはめている、ミリタリーテイストの腕時計。比較的手が届く価格のモノも多く、何より視認性が高く機能的であるためオフの日に愛用している人も多いのではないだろうか。このミリタリーウォッチというジャンルは、発祥の歴史やディテールの意味など知れば知るほど奥が深い。ここでは「歴史」「機能」「ブランド」の3本柱で、明日から使えるうんちくを“必要な分だけ”ご紹介していく。“腕時計に詳しい男”を気取れるトリビアをぜひ吸収して欲しい。
歴史:ミリタリーウォッチはすべての腕時計の起源である
19世紀後半
ポケットから出さずに、時間を確認できる時計が欲しい
トレンチコートやGPS、ランドセルに電子レンジと、軍隊発祥のものは意外と身近にある。腕時計もまた、そんな戦場の需要から生まれたアイテムの1つだ。
19世紀末、激化の一途を辿る戦場において重要視されるようになったのは“時間”だった。複雑化する作戦を効率よく遂行するためには、全軍がタイミングを揃えて行動することが必要となってくる。将校たちはそれまで支給された懐中時計を取り出して時間を確認していたのだが、迅速な時刻確認を行うため懐中時計を腕にくくりつける者が現れ始めた。よりスマートに、より合理的に、そんな彼らの要望に応える形で製作されたのが初の腕時計といわれており、第一次世界大戦を機に定着したという説が唱えられている。また、今では当たり前となっている防水、耐磁、耐衝撃というような要素も、戦場における“必要”から発達してきた。
20世紀初頭~中盤
2度の大戦で洗練、コストカットを繰り返す
19世紀末に戦場で生まれたミリタリーウォッチ。しかし20世紀初頭においてはまだまだ高価で、とても一般層に手の届く代物ではなかった。まずは出身階級の貧しい士官やパイロット、潜水部隊など軍の中でも時間の把握が命に関わるところから支給が始まった。続く戦争の中で各軍は時計ブランドにさらなるコスト削減を要請。機能に特化した腕時計が生まれる裏では、戦場で使い捨てできるシンプルな腕時計も進化を続けていたのだ。ここで、特殊部隊用の高機能なハイミッション系と、一般兵用の量産品にミリタリーウォッチは二分されていくことになる。
20世紀後半
クォーツショックを機に普及した腕時計
1969年、日本の誇る『セイコー』がそれまでの機械式時計の精度をはるかに凌駕するクォーツ時計・アストロンを開発。低コストで実用的な腕時計を量産できるようになり、スイスをはじめとした老舗ブランドが大打撃を受けたいわゆる「クォーツショック」は、腕時計が雲上のものであった庶民にとっては画期的な出来事だった。大衆化の波はミリタリーウォッチにも押し寄せ、誰もが腕時計を持てる時代においては軍が官給する意味は薄れていく。結果、腕時計はメーカーにより大量生産されるようになり、特にミリタリーウォッチはその機能性と視認性の高さから一般層に馴染み深いものとして広く普及していくことになるのだ。
機能:ミリタリーウォッチが愛され続ける理由
ミリタリーウォッチは、数多くある腕時計カテゴリの中でも特に愛されているジャンルのひとつ。その魅力の根源とは何か、簡単に3つのポイントで解説していく。
ポイント1
視認性に徹した機能美あふれるルックス
大ぶりなアラビアインデックスや見やすいデイト表示など、ミリタリーウォッチの文字盤はシンプルさと見やすさが売り。モノによっては暗闇でも時分針を各印できる蓄光機能や24時間表記のアワーサークルなども搭載しており、悪天候下や夜間でも現在時刻をひと目で把握できる工夫が詰め込まれている。特に瞬時の判読が求めらる、上空での使用を想定したパイロットウォッチは視認性第一。こちらの『IWC』の名作「マークXVIII」などは、まさにそのお手本ともいえる1本だ。
ポイント2
劣悪な環境をものともしないタフネス
雲の上から深海、高温多湿のジャングルに極寒の雪山まで、ミリタリーウォッチが必要とされる環境は多岐にわたる。例えば、写真の『ハミルトン』の「カーキネイビー」は耐圧を備えたアメリカ海軍特殊潜水部隊モデルがベース。深海300mまで潜ることのできる耐圧性能を備えており、ねじ込み式リューズで内部への浸水も防止する完全防水仕様だ。空軍モデルなら機器から発せられる磁気に対する耐磁、低温の環境なら油が固まらない特殊素材の使用など……、都市で生きる我々にはオーバースペックだが男心をくすぐる魅力がある。
ポイント3
歴史、由来を感じさせる粋なデザイン
かつて特殊部隊で使用されていた、20世紀中盤に英国空軍に採用されていた……、などの歴史に思いを馳せるのもミリタリーウォッチの醍醐味だ。中にはその由来を腕時計のデザインの中に落とし込んでいるモデルもある。例えば『ルミノックス』の「ネイビー シール 3000」シリーズはアメリカ海軍の特殊部隊の装備として開発された経緯があり、裏蓋にその紋章を刻むことでスペックを誇示している。それらを眺めて楽しむ愉悦は、いい大人になった今だからこそわかってくる。
ブランド:ミリタリーウォッチの歴史に名を刻む、手の届く名門ブランド
腕時計の歴史はミリタリーウォッチの歴史、ミリタリーウォッチの歴史は軍隊の歴史。 “腕時計”を飛躍的に進化させてきたのは軍隊で使用されながら揉まれ、戦場でフィードバックを得て真摯に試行錯誤を重ねてきたブランドたちだ。ここでは歴史の立役者たちの偉大な業績と、今購入できるマスターピースを順に紹介していこう。
ブランド1
世界で最も売れた時計を軍用時計に昇華した『タイメックス』
当時まだ「ウォーターベリークロックカンパニー」と名乗っていた『タイメックス』。1880年代に“ドルを有名にした時計”の異名を持つ驚異の1ドルポケットウォッチ・ヤンキーを開発し、20年間で4,000万本を販売、当時最も勢いに乗っていたウォッチブランドだった。第一次世界大戦において、ヤンキーに注目した米軍はさらに携帯性を高めた軍用時計を製造するよう要請。その時誕生したミジェットは大ぶりのオニオンリューズに細身のラグという、懐中時計の面影を残したミリタリーウォッチの元祖とも言えるモデルだった。戦後は民間人からも支持を集め、1920年代の大ヒット商品として記録に残っている。
ブランド2
第二次世界大戦で軍用時計を100万本生産した『ハミルトン』
もともと急速に広がっていたアメリカ鉄道会社に時計を卸していた『ハミルトン』も、1914年、第一次世界大戦の始まりとともにミリタリーウォッチブランドとしての歴史を刻み始める。1920年代には戦時中に得られたフィードバックを元に、腕時計を発売。第二次世界大戦においてはアメリカ政府の要請を受け、なんと計100万本以上もの腕時計を生産することになる。この時、軍隊内の時刻合わせの掛け声にちなみ「ハックウォッチ」と呼ばれていた手巻き式腕時計こそが『ハミルトン』定番中の定番、カーキシリーズとして現在に続くオリジンだ。タフなキャンバスベルトが、大人のオフにちょうどいい。
ブランド3
米国空軍に愛された『オリス』のビッグクラウン
気温が氷点下まで下がることのある1940年代の戦闘機のコックピット内では、分厚いグローブが必需品だった。グローブを着用したままでも腕時計を操作しやすいよう、『オリス』が提案したのが大ぶりのリューズが当時画期的だった「ビッグクラウン」だ。今では当たり前のように感じられるリューズのサイズも、戦場における需要から考案されたものなのである。今作はデイト(日付)を4本目の針で感覚的に視認できるようにしたポインターデイト。これもまた感覚的な判読を可能にする、利便性から生まれた機能だ。
ブランド4
現役ドイツ軍パイロットが開発した“技術の『ジン』”
『ジン』の正式名称は「ジン スペツィアルウーレン」。日本語訳すると「ジン特殊時計株式会社」という意味になる。大戦を経験し、ドイツ軍パイロットで飛行教官でもあったヘルムート・ジン氏が自身の経験を元に1961年に立ち上げたブランドだ。かつてドイツ空軍に納入されていた名品「156B」は残念ながら廃盤となってしまったが、今作「103.B」などの基本モデルにもプロユースを意識したモノづくりは受け継がれている。今では貴重になってしまった高精度な名機バルジューCal.7750を搭載し、日常生活において使い勝手の良い両方向回転ベゼルを採用している。
ブランド5
数々のプロの現場に正式採用されてきた『MWC』
“ミリタリー・ウォッチ・カンパニー”の頭文字を取って、『MWC(エムダブリューシー)』。1974年にスイスのチューリッヒに設立されたブランドで、世界各国の軍隊から警察部隊、航空会社などの民間企業にまで幅広く採用されてきた実績を持つ。その実績が、そのまま信頼性へとつながるミリタリーウォッチ。そんな腕時計が、1万円以下で手に入るというのだからありがたい話だ。ケース径は33mmと小ぶりながら、高性能クォーツと強化プラスチック風防が実直なスペックを示してくれる。
ブランド6
アメリカ軍との蜜月が生んだ名作を有する、『ブローバ』
アメリカ軍に正式採用された歴史は、なにも『ハミルトン』の特権ではない。世界初の音叉時計、『オメガ』に続く“ムーンウォッチ”などなど、数々のエポックメイキングなモデルを有する『ブローバ』にも、名作と呼ばれるミリタリーウォッチがある。それが、2020年に復刻を果たした「96A246」だ。軍時計に不可欠なハック機能や暗所での視認性を約束する蓄光針など、ディテールは上々。当時のモデルに忠実に再現された味のあるインデックスも、軍モノ時計好きにはたまらない。
ブランド7
リアルな現場にて愛されていたミリタリーウォッチの実力派『グリシン』
軍の正式採用時計とならなかったにもかかわらず、ベトナム戦争時には米軍パイロット達が自費で持参したという『グリシン』の「エアマン」。24時間かけて1周する短針は瞬時の時刻確認に適した仕様であり、実用性の高さから現在まで同ブランドを代表するモデルとして君臨している。こちらは、より初代に近い顔立ちで復刻された1本。ケースサイズも36mmと小ぶりで、薄型のストラップ、ドーム型のプレキシ風防と、古き良き時代のミリタリーウォッチを彷彿とさせるディテールが光る。昨今はGMT針を備えた12時間表示の「エアマン」もリリースされているが、懐古的な気分に浸るならやはり24時間表示のモデルだろう。
ブランド8
知る人ぞ知る、ドイツの隠れた名門『ラコ』
1925年、ドイツ西南部のフォルツハイムにて創業した『ラコ』。1940年代には精密機器メーカーとして成長を遂げ、第二次世界大戦中にはドイツ空軍の公式ウォッチを製造、納品している。ドイツらしくバウハウスの流れを汲んだパイロットウォッチには特に定評があり、奇をてらわない機能美が光るデザインはドイツ時計の入り口としても間違いない。今作は、クォーツムーブメントを搭載しており実用性も十分。なお曜日表示はドイツ語になっており、この“ちょっと違う”感じも面白い。
ブランド9
大量生産、という命題のために生み出された『ブライトリング』の定番
1936年には英国空軍の公式サプライヤー、1942年には米軍への納入をスタートするなど輝かしい歴史を有し、ミリタリーウォッチを語るに欠かせない『ブライトリング』。同ブランドといえば航空用回転計算尺を備えた特徴的なルックスの「ナビタイマー」が思い浮かぶだろうが、大量生産という問題を解決するべく誕生した「コルト」もまた、忘れてはならない。基本仕様は、バーインデックスにシンプルな3針。グローブをしたままでも操作しやすいベゼルのライダータブなど洗浄における実用性を訴求しつつ、『ブライトリング』の矜持であるクロノメーター認定もしっかり受けている。今作は自動巻きだが、コストダウンのためにクォーツモデルも用意。高価格帯に位置し、手がとどかないイメージの『ブライトリング』だが、「コルト」なら気軽に検討してみても良いだろう。
ブランド10
英国空軍に正式採用された『IWC』の名作、その末裔
大戦中である1940年代、各国が自社時計ブランドで軍用時計を生産していた時代に、力のある時計ブランドを有していなかったイギリスは永世中立国であるスイスのメーカーにその生産を委ねていた。その際空軍において正式採用されていたのが、現在の『IWC』の主力モデル、「パイロット・ウォッチ・マーク18」の元祖となる腕時計である。コックピット内の振動、圧力、温度変化、磁場に耐え得る耐磁時計の世界基準とまで謳われた名作のDNAを感じることができる、完成度の高い一本だ。今選ぶなら、ブランドと親交の深かったサンテグジュペリ氏へのオマージュモデルを選ぶのも、面白い。ベルトは『サントーニ』製。
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牟田神 佑介
「Men’s JOKER」、「STREET JACK」と男性ファッション誌を経た後、腕時計誌の創刊に携わり現職。メンズ誌で7年間ジャンルレスに経験してきた背景を生かし、handbagでは主に腕時計や革靴、バッグなど革小物に関する記事を担当している。
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