IWCの6つのコレクションに見る、ブランドの歴史と革新
『ロレックス』『オメガ』に引けを取らないステータス性を持ち、むしろ時計通の間で評価が高い腕時計ブランド、それが『IWC』。人気のコレクションから、魅力を深堀り。歴史に名を残す名機を数多く擁する『IWC』
『IWC』が生まれたのは、1868年のこと。アメリカ人フロレタイン・アリオスト・ジョーンズ氏が、スイス・シャフハウゼンに「インターナショナル・ウォッチ・カンパニー」を設立したのが始まりです。当初から技術力に定評があり、1885年には世界初のデジタル表示式ポケットウォッチを製作しています。1936年には耐磁仕様の「スペシャル・パイロット・ウォッチ」を発表、後に英軍に制式採用されるまでに。また、永久カレンダーやムーンフェイズ、トゥールビヨンなどの複雑機構を搭載する「ダ・ヴィンチ」では、卓越した技術力を見せつけています。
『IWC』が眼の肥えた腕時計好きにも好まれる理由
派手さはないものの、腕時計好きの間では高い評価を得ている『IWC』。いわゆる玄人ウケするブランドなのです。その理由は、生まじめな腕時計作りにあります。常に先進の機能を開発し、腕時計界に新風を呼び込んできたのです。ここで『IWC』の魅力を2つの視線でご紹介します。
理由1
自社規格による精度への飽くなき探求と、高い実用性
『IWC』はスイスのブランドですが、ドイツ語圏に位置するシャフハウゼンに本拠地を構えています。そのため、スイスブランドの中でも実用性を重視する傾向にあり、ドイツのクラフトマンシップが息づいているといわれています。その現れの1つが独自の自社テストです。すべての試作品は数か月かけて、耐衝撃、摩耗、腐食など、約30ものテストに合格しなければなりません。また、完成された商品は、10日間に渡り最終検査にかけられ、『IWC』にふさわしい精度を持つ個体しか出荷されることはありません。この信頼性こそ、『IWC』の大きな魅力になっているのです。
理由2
主張しすぎない、落ち着いた大人向けのデザイン
精緻を極めた腕時計作りに定評のある『IWC』は、デザイン面でも硬派。近年は「ダ・ヴィンチ」などラグジュアリーなモデルも話題になりますが、あくまで「パイロット・ウォッチ」や「インヂュニア」といったシンプルで視認性の高いモデルが主力。要素が整理されたフラットな文字盤はひと目で時間がわかります。高級ブランドとして確固たる地位を築いた今でも、時間を読み取るという腕時計のもっとも基本的な役割を重視しているのです。この姿勢が腕時計マニアをうならせ、高評価を得ている理由なのです。
『IWC』を構成する、6つのコレクションを知る
『IWC』にはパイロットウォッチにダイバーズ、ドレスライクなモノまで多種多様なコレクションが存在します。ここでコレクションごとにその代表モデルを見ていきましょう。
▼コレクション1:ポルトギーゼ
1930年代後半、ポルトガルの商人が、マリンクロノメーターと同様の精度を持った腕時計を『IWC』に発注します。マリンクロノメーターとは、船舶に搭載する大型の業務用計測装置のこと。『IWC』はポケットウォッチ用ムーブを腕時計のケースに収め、この要求に応えます。これが「ポルトギーゼ」の始まりです。1993年にシンプルなラウンド型腕時計として「ポルトギーゼ」が復活を果たし、以後『IWC』の主力モデルとして定着しました。
ポルトギーゼ・クロノグラフ
シンプルな文字盤にクラシカルなリーフ針、視認性の良いアラビアインデックスなど、オリジナルデザインを踏襲した「ポルトギーゼ クロノグラフ」。表示要素が多く、文字盤がごちゃつきがちなクロノグラフでありながら、インダイヤルを同色で控えめにデザインすることで見事にシンプルさをキープ。まさに『IWC』の哲学が凝縮されたデザインです。
ポルトギーゼ オートマティック
『IWC』のデザイン文法にのっとったシンプルデザインに、高性能ムーブメントを搭載した逸品がこちら。『IWC』が開発した巻き上げ効率が高いペラトン式自動巻き上げ機構を搭載したCal.52000は、耐久性に優れるセラミックを部品の一部に採用した新しいムーブメントです。また、フルにゼンマイを巻き上げると7日間も腕時計が駆動する、7daysロングリザーブを搭載しているのも魅力の1つです。
▼コレクション2:パイロット・ウォッチ
「パイロット・ウォッチ」は、ここ日本で一番の人気を誇るシリーズです。その名のとおり、パイロットのための腕時計であり、英国空軍にも正式採用されています。ミリタリー腕時計特有のタフさとシンプルさが特徴ですが、ケースやブレスレットの仕上げが丁寧で品があるためスーツにもマッチしますし、軍モノ由来の武骨さはカジュアルスタイルにもよく合います。そのため比較的若い世代にも人気のシリーズです。
パイロット・ウォッチ マークXVIII
1948年誕生の「マーク11」から継続する「マーク」シリーズ。「マーク11」は英国空軍のために開発された歴史を持ち、現行の「マークXVIII」にもその機能性が受け継がれています。視認性の良いアラビアインデックスや、精度を狂わす磁気の影響を排除する軟鉄製のインナーケースも初代譲り。そして腕時計ファンから評価が高いのが5連のブレスレット。多連のため、腕にしっかりフィットし、腕時計の重みを感じさせない快適性を誇ります。
パイロット・ウォッチ・クロノグラフ・スピットファイア
「パイロット・ウォッチ」の機能性はそのままに、エレガントな味付けを加えたのが2003年に登場した「スピットファイア」シリーズ。スレートカラーの文字盤はサンレイ加工が施され、高級感たっぷり。もちろん耐磁性軟鉄インナーケースも装備しており、機能性に抜かりはありません。このモデルはクロノグラフに加え、デイデイトも搭載しているので、デイリーユースでも便利です。
パイロット・ウォッチ・クロノグラフ “アントワーヌ・ド・サンテグジュペリ”
「星の王子さま」で知られる作家であり、パイロットでもあったサンテグジュペリ氏をリスペクトして登場したのが「アントワーヌ・ド・サンテグジュペリ」シリーズ。カーフスキンを使用したブラウンの革ベルトは、サントーニ社が製造し、サンテグジュペリ氏の飛行服からインスピレーションを受けたモノ。裏ぶたにはサンテグジュペリ氏の最後の飛行を記念した刻印が入った、スペシャルモデルです。
▼コレクション3:アクアタイマー
『IWC』のダイバーズウォッチが「アクアタイマー」シリーズです。多くのダイバーズモデルが目盛りを刻んだ回転式アウターベゼルを採用するなか、1967年に誕生した「アクアタイマー」は文字盤外周が回転するインナーベゼルを装備していました。現在でもスタイリッシュなインナーベゼルは「アクアタイマー」の特徴になっています。2014年の新モデルでは、リューズではなくアウターベゼルでインナーベゼルを操作する仕組みにアップデートされました。
アクアタイマー・オートマティック2000
モデル名の「2000」は、200気圧防水、つまり2000m防水機能であることの表れ。アウターベゼルで逆回転防止インナーベゼルを操作する新開発のギミックや、『IWC』が特許を取得しているブレスレットを即座に交換できるシステムも搭載しています。ケースには軽量でタフ、金属アレルギーの心配がないチタニウムを採用しているのも特徴です。針には目立つようにイエローコーティングが施され、ダイバーズウォッチらしく視認性への配慮もなされています。
▼コレクション4:ポートフィノ
イタリア、地中海ティグッリオ湾に面した瀟洒なリゾート地として名高いポートフィノ。1970年代に登場した『IWC』の「ポートフィノ」は、この街のエレガンスを表現したシリーズです。リーフ針やローマンインデックス、ムーンフェイズなど、優美な意匠がさりげなく施され、質実剛健なモデルが揃う『IWC』において、貴重なドレスラインとして存在感を高めています。
ポートフィノ・オートマティック
針はリーフ型、12位置にはローマンアプライドインデックスをあしらい、クラシカルさが際立つ3針シンプルウォッチ。40mmのケースサイズは日本人にぴったりで、腕馴染みの良さは大きな魅力です。丸みを帯びたポリッシュベゼルやミラネーゼ・メッシュ・ブレスレットが、このモデルのエレガントさをより引き立たてるディテールになっています。
▼コレクション5:インヂュニア
「インヂュニア」の誕生は1955年。このシリーズは腕時計の大敵、磁気への対策が施された耐磁腕時計。しかしこのモデルを一躍有名にしたのは、天才デザイナー、ジェラルド・ジェンタ氏が手掛けた1976年の「インヂュニアSL」でしょう。ビス打ちベゼルや立体的なブレスレットなど、マッシブなデザインが話題を呼びました。2016年には初代「インヂュニア」のデザインに原点回帰を果たし、よりミニマルなフォルムを手に入れています。
インヂュニア・オートマティック
初代「インヂュニア」(Ref.666 AD)にインスパイアされた2017年登場の最新モデル。ケースは40mmと小型化し、ベゼルもポリッシュ仕上げのビスなしとシンプルなモノになり、洗練度が増したモデルチェンジになりました。針とアプライドインデックスには、ロジウムメッキが施され、文字盤にメリハリをもたらしています。12気圧(120m)防水性能を誇るため、日常生活でも水まわりを気にすることなく使えますね。
▼コレクション6:ダ・ヴィンチ
「ダ・ヴィンチ」最初のコレクションは1969年に発表されました。1985年には、永久カレンダー、ムーンフェイズ、クロノグラフ、4桁の西暦表示を装備したラウンドウォッチが登場し、「ダ・ヴィンチ」は『IWC』におけるコンプリケーションラインという性格を帯びるようになります。その後トノー型へのモデルチェンジがありましたが、2017年ラウンド型に回帰。トゥールビヨンもラインアップに加えることによって、『IWC』の高級ラインとして確固たる地位を確立しています。
ダ・ヴィンチ オートマティック・ ムーンフェイズ
磨き上げられた36mmの小振りなポリッシュケースがエレガンスを漂わせるモデル。12時位置には月齢を表示するムーンフェイズを配置し、ラグジュアリーなムード作りに1役買っています。アリゲーターレザーベルトはサントーニ製で、大人な印象。裏蓋にはレオナルド・ダ・ヴィンチ氏が研究した生命の花をモチーフにした幾何学模様が刻印されています。
海外での取材経験も多数。時計専門ライター
夏目 文寛
出版社勤務時にはファッション誌、モノ情報誌の編集を15年にわたって従事。各雑誌で編集長を歴任し、2017年よりフリーのleather bagに。男の嗜好品に詳しく、特に腕時計は機械式の本場スイスをはじめとするヨーロッパに何度も取材に行くほど情熱を傾けている。興味のない人にもわかりやすく!がモットー。