圧倒的センスで業界震撼。ブルガリの腕時計に愉悦する
ジュエラーとして名高い『ブルガリ』が時計界に進出して約半世紀。現在はムーブメントも内製化するほど躍進を遂げている。改めて、時計ブランドとしての実力を検証しよう。まるで腕に巻く愉悦。時計業界でも成功した『ブルガリ』
『ブルガリ』は1884年、銀細工師のソティリオ・ブルガリ氏がローマに宝飾店を開いたことでスタートし、高度な仕上げと独創的なデザインで評価を上げて事業を拡大してきた。転機は1975年に訪れ、上顧客向けの贈呈品として100本限定でベゼルに“BVLGARI”と“ROMA”を刻印したデジタルウォッチを製作。好評だったことから1977年に市販モデル、「ブルガリ・ブルガリ」を発売したのだった。その後、1980年代に企画から製造までを担う「ブルガリ・タイム社」をスイスに設立し、2010年に“ウォッチメーカー宣言”を行って時計事業をブランドの柱に据えた。
得意とするのは高級時計の粋、“腕元での主張”
元々がジュエリーブランドとして成り立った背景から、『ブルガリ』のデザインはユニークである。ロングセラーの「ブルガリ・ブルガリ」にしても、ベゼルにブランドロゴを刻印するという斬新さは他社になかった発想で、ひと目で“ブルガリの腕時計”と判別できる。では、この強烈な個性はどこから来たものなのか? それは創業地であるローマの古代文化と関係が深く、例えば「ブルガリ・ブルガリ」のベゼルは当時のコインに、円柱状のケースは神殿の支柱にインスパイアされたものと言われている。
『ブルガリ』をスターダムに押し上げたのは、ジェラルド・ジェンタ氏
上品さに加えてキャラクターの立った「ブルガリ・ブルガリ」は、鬼才、ジェラルド・ジェンタ氏のデザインといわれている。フリーの時計デザイナーとして活躍した同氏は、『オーデマ ピゲ』の「ロイヤル オーク」(1972年発表)、パテック フィリップの「ノーチラス」、IWCの「インヂュニアSL」(ともに1976年発表)などを手掛けた。クリエイティブなジェンタ作品は時計界のいち時代を築き、そのカリスマ性は今もなおファンを魅了している。だからこそ「ブルガリ・ブルガリ」はコレクターからの支持も厚いのだ。
オリジナルが1975年に発表されたクォーツの「ブルガリ・ブルガリ」は、その後すぐに手巻きバージョンが開発されるなど、『ブルガリ』きってのロングセラーモデルへと成長している。同社の人気リング、「ビー・ゼロワン」に通じるロゴを2つ刻印したベゼルを持ち、シリンダー断面図をイメージさせる幾何学的なケースフォルムを特徴とするコレクションだ。本来、ベゼルはガラス風防を押さえるためのパーツだが、ここにシンボリックなデザインを施したことはジュエリー界出身らしいセンスといえる。
2大デザイナーのブランドを統合し、さらなる飛躍を遂げた『ブルガリ』
現在、『ブルガリ』内のシリーズの1つとして「ジェラルド・ジェンタ」が存在する。これは同氏が自らの名を冠した同名のブランド(1972年創業)がルーツで、2000年に『ブルガリ』が買収し、2010年の“ウォッチメーカー宣言”によって完全統合された。同シリーズのラインアップのほとんどが複雑機構を備えるハイエンドピースで、ジェンタ氏自身が得意としていたレトログラードを搭載するコレクションも揃える。また、かつては同様の流れで『ダニエル・ロート』名義のブランドも傘下に収めるなど、『ブルガリ』は1990年代後半から時計界への進出と技術的な発展を率先して行ってきた。
“ウォッチメーカー宣言”とともに自社ムーブメントを発表
前述の通り、『ジェラルド・ジェンタ』と『ダニエル・ロート』という実力派ブランドを吸収した『ブルガリ』は、進化を加速していった。そして創業125周年の2010年、時計製造への注力を内外にアピールするべく“ウォッチメーカー宣言”を実施し、同時にブランド初の自社ムーブメント「Cal.BVL 168」を発表。同機を創業者の名を冠した新コレクション「ソティリオ・ブルガリ」に搭載し、華々しくデビューを飾ったのである。その後も自社ムーブを精力的に開発し、現在の主軸である「ソロテンポ」や超薄型の「フィニッシモ」を発表している。
『ジェラルド・ジェンタ』より生まれた「オクト・バイレトロ」
時計の複雑機構の1つ「レトログラード」は、針が扇状に動作して端まで達すると瞬時に反復して帰針する機能のこと。ジェラルド・ジェンタ氏が得意にしたことで知られており、『ブルガリ』の傘下に入った後も用いられてきた。さらに同氏が好んだ8角形のケースフォルムに、このレトログラードとジャンピングアワーを載せた「ジェラルド・ジェンタ オクト・バイレトロ」は、欧州の主要な時計賞に輝くなど、輝かしい経歴を持っている。
『ダニエル・ロート』より生まれた「クロノスプリント」
アブラアン-ルイ・ブレゲ氏の再来とも称され、『ブレゲ』所属時にはトゥールビヨンを腕時計サイズに小型化させた功労者とされる天才時計師、ダニエル・ロート氏。1988年に自身のブランドを立ち上げ、同社はのちに『ブルガリ』に買収された。当然ながら同氏が生み出した高度な技術や斬新なデザインは継承され、著名な「ダニエル・ロート クロノスプリント」には、象徴的なダブルオーバルケースに「クロノスプリント」と呼ばれるフライバック機能付きのワンプッシュ式クロノグラフを搭載。古くからのファンをも納得させた。
どれをとっても独創的。『ブルガリ』のそのほかの人気モデルを知る
ここまでドレス系ウォッチや複雑時計を主に紹介してきたが、『ブルガリ』にはまだまだ多彩なコレクションがある。「ディアゴノ」にはダイバーズや軽量なスポーティモデルが、「オクト」には世界最薄モデルまで存在。それらの一部を紹介する。
モデル1
ブルガリ・ブルガリ カーボンゴールド Ref.BBP40BCGLD/N
2016年に加わった軽量かつ耐摩耗性にも優れるカーボンケースモデル。インデックス、針、リューズに18Kピンクゴールドを用いて、漆黒のデザインとのコントラストを際立たせた。ダブルロゴが刻印されたカーボンベゼル、自動巻きムーブメントを眺められるシースルーバック、編み込みストラップを採用したハイコストパフォーマンスな1本といえる。文字盤上の「VIA DEI CONDOTTI 10 ROMA」は、ブルガリ本店の所在地を示す。ケース径40mm。
モデル2
ディアゴノ マグネシウム Ref.DG41C6SMCVD
マグネシウムのミドルケースとPEEK(航空・宇宙分野のほか、F1エンジンのコーティングに用いられる高耐久性の軽量ポリマー素材)のサイドパーツを融合したハイテクケースに、小傷を寄せつけないセラミックベゼルを備える。モーターラックと呼ばれるラッカー仕上げによって、一風変わったシルバーダイヤルを形成。ケースバックはPVD加工を施したステンレススチール製だ。3時位置に日付表示。ケース径41mm。100m防水。自動巻き。
モデル3
ディアゴノ マグネシウム クロノグラフ Ref.DG42C3SMCVDCH
上記で紹介した3針タイプ登場の翌年、2016年に生まれたマグネシウム&PEEKケースのクロノグラフ仕様。モーターラックと呼ばれる独特なラッカー仕上げを施したブルーダイヤルには、3つのブラックインダイヤが並ぶ。それぞれ3時位置がスモールセコンド、6時位置がクロノグラフの12時間積算計、9時位置が同じく30分積算計だ。“BVLGARI”のロゴを刻んだセラミックベゼルやラバーストラップがスポーティな印象を与える。ケース径42mm。100m防水。自動巻き。
モデル4
オクト ローマ Ref.OC41C3SSD
自社製の「Cal.BVL 191ソロテンポ」を搭載するオクトシリーズのスタンダードモデル。191パーツから形成される同ムーブメントは、ローターのボールベアリング部分に摩耗に強いセラミックを使い、耐久性と回転効率を上げることに成功。また、より外部からの衝撃に強いツインブリッジ式のテンプを採用する。41mmサイズのサンレイラッカー仕上げのブルーダイヤルは、2018年に追加。ほぼ同デザインの38mm「オクト」のラインアップもある。シースルーバック。自動巻き。
モデル5
オクト フィニッシモ Ref.BGO40C14TLXTAUTO
ケースの厚さ5.15mm、ムーブメントの厚さ2.23mmという驚異的な数値で、どちらも“自動巻き世界最薄”の偉業を成し遂げた2017年発表作。搭載する自社製の「Cal.BVL 138フィニッシモ」は、プラチナ製のマイクロローターを採用して薄型化と巻き上げ効率を図ったもの。チタニウム製リューズのトップには、セラミックをあしらう。7-8時間にスモールセコンドをレイアウトした、絵画的なルックスがなんともユニークだ。直径40mmのチタンケース。シースルーバック。アリゲーターストラップ。
モデル6
オクト マセラティ グランスポーツ Ref.BGO41C3SLR/MAS
イタリアの名門同士、『ブルガリ』と『マセラティ』がパートナーシップを締結したのは2012年。コラボウォッチは毎回人気を博しており、第3弾では初めてクロノ以外の複雑モデルとなった。レブカウンターからインスパイアされたレトログラードのミニッツ表示、3時の窓にジャンピングアワー、その下に『マセラティ』のトライデントエンブレムを配置し、特別感を演出。ブラックDLC加工した、直径41mmのSSケース。シースルーバック。自動巻き。
モデル7
ソティリオ・ブルガリ デート・レトログラード Ref.SBP42BGLDR
“ウォッチメーカー宣言”と同時に発表された近年の『ブルガリ』における歴史的シリーズに、シンボル的な機能であるレトログラードのポインターデイトを搭載。個性的なラグを持つ18Kピンクゴールド製の42mmケースに、自社製ムーブメントの「Cal.B89」を備える。文字盤だけではなく、シースルーバックから鑑賞できるムーブにもソレイユ仕上げや円形コート・ド・ジュネーブ仕上げを施し、大人の所有欲を満たす細部の美にもこだわった逸品だ。自動巻き。
雑誌やWEBを中心に活動するモノ系フリーライター。時計やクルマへの趣味が高じ、それらを専門的なジャンルとしている。最近欲しいモノは、同い年のアンティークウォッチ。