偉人たちも魅了。リップの腕時計はいつの時代も新鮮だ
時計ブランド『リップ(LIP)』をご存じですか? 150年以上の歴史を持ち、フランスらしいウィットに富んだデザインで数々の偉人を魅了してきた名ブランドを取り上げます。150年以上続くフランスの老舗ブランド『リップ(LIP)』
1867年に創業した『リップ(LIP)』は、2017年に150周年を迎えた老舗ブランド。名だたるスイスの名門時計ブランドでも、『オメガ』が1848年、『タグ・ホイヤー』が1860年、『ロレックス』に至っては1905年の創業なので、いかに『リップ』が長い歴史を持つかがわかります。生まれはフランス東部の街、ブザンソン。フレンチウォッチの代表格としてクラシックな逸品からエッジィなモデルまで幅広く展開しており、近年ではブザンソン出身のデザイナー、クリストフ・ルメール氏とコラボした「リップ フォー ルメール」でも注目を浴びました。時計ツウからも、ファッション好きからも高い評価を得ているブランドなのです。
ド・ゴール氏もチャーチル氏も。偉人に愛されてきた『リップ』
フランスを代表する『リップ』を語るうえで外せないのが、創業者エマニエル・リップマン氏とフランスの英雄、ナポレオンとの関係でしょう。ブランド設立前、リップマン氏は皇帝ナポレオンに腕時計を贈呈し、皇帝はこれを愛用したと伝えられています。
20世紀に入ると大衆向けの時計を製造し、第一次世界大戦時には、フランス軍の要請を受け、将校向けの時計も開発しています。第二次世界大戦後、『リップ』は先進的な時計作りに着手。アメリカに渡っていたエマニエル氏の孫、フレッド氏が、当時最先端のエレクトリックウォッチの開発を主導して世界を驚かせました。同モデルは1952年にパリ科学アカデミーで披露され、世界で初めて電池で動く時計として大きな評判を呼ぶことになります。同時に、フランスの国民的なブランドとして、クラシカルなアナログ時計でもスマッシュヒットを連発。大統領などの偉人が愛する名作を製作していくのです。
革新的な腕時計を開発するブランドとして知られる一方で、『リップ』は“プレジデントウォッチ”としても有名です。1958年には当時のムーブメントでも名作と名高いキャリバーR27を搭載したモデルが発表され、フランスのシャルル・ド・ゴール大統領、アメリカのアイゼンハウアー大統領に贈られたのです。また、1948年にはパリをドイツ軍から解放したことへの感謝から、イギリス首相のチャーチル氏にも『リップ』が贈られています。そして時を経た1994年にも、第二次大戦終戦50周年として、アメリカのクリントン大統領に時計が贈呈されました。まさに『リップ』は、歴史に名を残す偉人が手にした時計ブランドなのです。
ますはこれだけ押さえよう。『リップ』といえば「マッハ2000」
『リップ』を象徴するモデルを1つ挙げるとすると、1975年に発表された「マッハ2000」になるでしょう。流線型のアシンメトリーなフォルムは、フランスの高速鉄道TGVのデザインを手掛けたことでも有名なインダストリアルデザインの巨匠、ロジェ・タロン氏がデザインしました。
この「マッハ2000」のデザインは後世に大きな影響を与え、ニューヨーク近代美術館(MOMA)のパーマネントコレクションにもなっているほどです。現在でも『リップ』の看板モデルとして君臨しており、「西暦2000年でも色褪せないデザインを作りたかった」と語ったとされるタロン氏もきっと満足していることでしょう。
この「マッハ2000」、ユニークなフォルムばかりに目が行きがちですが、腕時計としての機能性も優れています。通常腕時計はストラップの中央に文字盤が来るようにデザインされますが、「マッハ2000」は手首とは反対側にオフセットされています。いつもより少し体に近いところに文字盤があるだけなのに時間が読みやすく、薄いストラップも手首にぴったりフィットしてとても快適です。つまり、“時間を確認する”、“着け心地が良い”という腕時計の基本機能も非常に高いのです。
良デザインの宝庫。『リップ』の腕時計おすすめ8選
「マッハ2000」やエレクトリックウォッチの印象から、『リップ』といえば奇抜なデザインが特徴と思われがち。ですが、何しろ150年以上の歴史を持つブランドなので、オンでもOKなクラシックな時計もラインアップしています。
アイテム1
マッハ2000 クロノグラフ
まずはご紹介した「マッハ2000」から。人間工学および流線工学に則って作られた、唯一無二のデザインは時計史に残る傑作です。特徴的な黄青赤のプッシュボタンがコーデのアクセントに最適。見慣れないフォルムなので難易度が高そうと思われがちですが、全体が流線型で統一されているので、腕への収まりは決して悪くありません。写真のラバーストラップのほか、メッシュブレスタイプやシンプルな3針モデルもラインアップしています。
アイテム2
マッハ ダイオード
1976年に登場したダイオードウォッチが搭載していたのは、当時最先端の技術でした。デザインは「マッハ2000」と同じく、ロジェ・タロン氏が担当しました。復刻された本作はLEDに変わりましたが、35mmの小型のスクエアサイズもレトロな表示も当時のままをキープ。それでも新鮮さを失わないのは、ロジェ・タロン氏の先進的なデザインがいかに優れていたかを証明しています。ベルトはレザーになっており、褪せた色味のオレンジも落ち着きがあるため、大人っぽく着けこなせます。
アイテム3
ヒマラヤ 40mm オートマチック
1954年に『リップ』3代目オーナーであるフレッド・リップ氏と、ヒマラヤ山脈マカルーの初登頂で知られる登山家リオネル・テレイ氏の友情から生まれたモデル。タフな作りで登山家から圧倒的な支持を得て、1950年代のフランスの登山家の実に90%がこの腕時計を愛用していたと伝えられています。スモールセコンドと重なるように配置されたオープンハートがデザイン的なアクセントとなっており、ドレスウォッチでありながらフランスらしいウィットに富んだルックスに。アルペンウォッチを出自に持つだけあり、くさび形のインデックスは非常に視認性が高いものとなっています。
アイテム4
チャーチル T18
第二次世界大戦時にドイツ軍からパリを解放した功績を讃え、1948年、フランス政府がウィストン・チャーチル首相に贈ったのがこのモデルです。パリを中心に流行したアールデコ調のツートーン文字盤や、気品あるレクタンギュラーケースは、まさに信頼感ある大人の魅力に溢れる意匠。歴史的なバックグラウンドと優れたデザイン性を併せ持った逸品です。
アイテム5
ジェネラル ド ゴール
フランスのシャルル・ド・ゴール大統領、アメリカのアイゼンハウアー大統領に贈られたプレジデントウォッチがこちら。クッション型のケースがオーセンティックな腕時計らしさを醸し出しながら、金で縁取られた立体的なインデックスで存在感を主張するバランスのとれたデザインが魅力です。サイズも往年の35mm径をキープしており、現代では新鮮。日本製のミヨタムーブメントを搭載しています。
アイテム6
ドーフィン
1957~61年の間、もっとも売れたフランス車として知られる『ルノー』の「ドーフィン」。このモデルはそんな小型自動車をモチーフに、1957年に登場しました。今でもまったく古さを感じさせない、ミニマルなフェイスが特徴的です。文字盤には光によって表情が変わるサンレイ加工が施されており、シンプルながらもエレガントな印象を醸し出しています。
アイテム7
パノラミック
フレッド・リップ氏がデザインを担当した「パノラミック」は、1950年半ばに誕生しました。ベゼルを細くし、文字盤を最大限まで大きくするというバウハウスの手法を取り入れたこのモデルは、圧倒的に高い視認性を誇ります。昔ながらのプラスチック風防を今も採用したレトロ感も魅力の1つです。革ベルトのほかにメッシュストラップもラインアップされているので、汗ばむ夏はそちらを選ぶのもありでしょう。
アイテム8
ノーティックスキー
1968年フランス・グルノーブル冬季オリンピックを記念して登場したモデル。フランス時計としては、初めて機械式で200m防水を達成したダイバーズモデルです。回転ベゼルを文字盤内に収めたインナーベゼルを搭載し、ダイバーズにありがちなラフな印象を中和したラグジュアリーな潜水時計になっており、スーツにも難なく合わせられます。ケース径38mmというのもダイバーズにしてはかなり小振りで、腕馴染みは特筆モノ。パンチング加工が施されたウレタンストラップも機能的で夏にぴったりです。
海外での取材経験も多数。時計専門ライター
夏目 文寛
出版社勤務時にはファッション誌、モノ情報誌の編集を15年にわたって従事。各雑誌で編集長を歴任し、2017年よりフリーのleather bagに。男の嗜好品に詳しく、特に腕時計は機械式の本場スイスをはじめとするヨーロッパに何度も取材に行くほど情熱を傾けている。興味のない人にもわかりやすく!がモットー。