オーデマ ピゲの格。一目置かれる腕時計の超絶技巧
『オーデマ ピゲ』と聞いてピンとくる人は時計好きでもなければ少ないはず。時計ブランドのなかでも名門中の名門を、ここでしっかり深掘りしてみましょう。優れたデザインのみにあらず。『オーデマ ピゲ』が担ってきたこと
『オーデマ ピゲ』の創業は1875年にさかのぼります。スイスのル・ブラッシュで設立以来今日に至るまでずっと家族経営を続けている、名だたるブランドが巨大資本に買収されている時計業界では非常に珍しいブランドなんです。そんな『オーデマ ピゲ』の名を一躍有名にしたのが、クロノグラフやミニッツリピーターといった複雑時計でした。高い技術力に加え、芸術性も持ち合わせた作品によって、『オーデマ ピゲ』は、『パテック フリップ』『ヴァシュロン・コンスタンタン』と、スイス時計3大ブランドと並び称されることになります。
知名度こそ『ロレックス』や『オメガ』『タグ・ホイヤー』などのメジャーブランドに及びませんが、時計業界での立ち位置は、最上級に分類されているのです。現在も創業以来の伝統である超絶技巧を誇る複雑時計で時計マニアを喜ばせる一方、セレブに愛されるラグジュアリーブランドとしての性格を強めています。特に、1972に発表されたスポーツモデル「ロイヤルオーク」の人気モデルは品薄になるほどの人気を誇り、成功者たちのあこがれの1本となっています。
『オーデマ・ピゲ』が成し遂げた、3つの“世界初”
『オーデマ ピゲ』が頭角を現し、現在の地位を手に入れたのは何も長い歴史に根差したものだけではありません。そこには、圧倒的な技術力があったのです。そこで、『オーデマ ピゲ』が成し遂げだ“世界初”をここで紹介します。
その1
世界三大複雑機構、「ミニッツリピーター」の開発
「ミニッツリピーター」とは、現在の時刻を音で知らせる機能のことです。内蔵されたゴングがケースを打つ音の回数で現在時刻を表すという、腕時計のサイズ感を維持しながら搭載するにはなかなか骨の折れる技術です。「パーペチュアルカレンダー」や「トゥールビヨン」と並び、同機構は世界3大複雑機構と呼ばれています。『オーデマ ピゲ』は世界で初めて、1892年に腕時計に搭載することに成功し、世界にその名を轟かせました。
その2
世界初の「トゥールビヨン」の自動巻き化を達成
「ミニッツリピーター」の快挙に続いて、『オーデマ ピゲ』は「トゥールビヨン」についても、世界初を達成しています。1986年、世界で初めて自動巻きの「トゥールビヨン」を発表しました。「トゥールビヨン」とは調速機を回転させることにより、重力の影響をできるだけ小さくしようとした複雑機構のこと。それまでその複雑さから手巻きしか存在しませんでしたが、『オーデマ ピゲ』がはじめて自動でゼンマイを巻き上げる自動巻き機構を実現したのです。
その3
デザインでも初。高級腕時計に、“SS”モデルを導入
1972年は腕時計の歴史が変わった年です。それまで、『オーデマ ピゲ』のような超高級腕時計ブランドはゴールドをはじめとする貴金属で時計を製造するのが普通でした。ところがこの年、8角形のベゼルを持つ「ロイヤルオーク」が発表されます。素材はSS、ベゼルにはビスが打ちっぱなしとなった、ラグジュアリーブランドによる初のSSスポーツモデルが誕生したのです。この「ロイヤルオーク」の人気が爆発し、同ブランドが“ラグジュアリースポーツ”という新しいジャンルを切り拓く形となりました。
やっぱり「ロイヤルオーク」。そのデザインとバリエーションを改めて
「ロイヤルオーク」は「ロイヤルオーク オフショア」と2つに大別されます。「オフショア」は1993年に派生したもので、無印版より大ぶり。ラバーストラップを採用することも多く、よりスポーティに仕上がっています。見分け方は、文字盤に施された格子ギョーシェ・タペストリーの大きさ。細かいものが無印の「ロイヤルオーク」、大柄なメガ・タペストリーが「ロイヤルオーク オフショア」と覚えればOKでしょう。元祖「ロイヤルオーク」の直系となる現行モデルは、時計の見本市のSIHH2019(ジュベーブサロン)で発表されたばかりのRef.15500ST。ムーブメントやディテールのアップデートはありますが、アイコニックなデザインは継続しています。
▼ポイント1:天才ジェラルド・ジェンタ氏による洗練のケースデザイン
20世紀の時計デザイナーで重要とされる人物の1人、それがジェラルド・ジェンタ氏です。『パテック フィリップ』の「ノーチラス」、『IWC』の「インヂュニア」、『カルティエ』の「パシャ」、『ブルガリ』の「ブルガリ・ブルガリ」……。手がけた時計を列挙すれば彼の偉大さが分かるでしょう。「ロイヤルオーク」はそんなジェンタ氏の出世作として有名です。八角形(オクタゴン)のベゼルに六角形のビスを打ちっぱなしにするという斬新なデザインは、当時の常識を打ち破るものでした。以降、有名ブランドがこぞってSSのスポーツモデルを登場させ、ラグジュアリースポーツは時計の人気ジャンルとして定着していくことになります。
▼ポイント2:スポーティなオフショアクロノや複雑機構モデルまで目白押し
先程紹介した派生モデル「ロイヤルオーク オフショア」やクロノグラフ、ミニッツリピーター、トゥールビヨンを搭載したコンプリケーションモデルなど「ロイヤルオーク」はラインアップも膨大に存在します。多彩なモデル群から、ここで5本を紹介しましょう。
1本目
ロイヤルオーク オフショア クロノグラフ フォージド・カーボン
従来のカーボンをより強化&軽量化し、スーパーカーや航空機にも採用されるフォージド・カーボンをケースに使用。オクタゴンベゼルにはセラミックを採用し、最先端の素材をふんだんに使用したまさに現代における「ロイヤルオーク」を代表する1本です。
2本目
ロイヤルオーク クロノグラフ
「ロイヤルオーク」のクロノグラフバージョン。ケース径は3針モデルと同じ41mmに抑えた、現代のクロノグラフとしては小ぶりの部類に入るサイズ感も魅力。2時位置、4時位置のプッシャーもオクタゴンで統一するなど、よりエッジの効いた意匠にも注目です。もちろん、完全自社製ムーブメントを搭載しています。
3本目
ロイヤルオーク オフショアダイバー ブティック限定
「ロイヤルオーク」のダイバーズモデルがこちら。ダイバーズウォッチに欠かせない回転ベゼルは特徴的なオクタゴンベゼルを損なわないよう、文字盤内に酸素ボンベの残り時間を表示するインナーベゼルとして装備しています。シースルーバックながら防水性能300mを誇る本格派です。
4本目
ロイヤルオーク ダブル バランスホイール オープンワーク
同軸に2つのテンプとヒゲゼンマイをセットした『オーデマ ピゲ』だけの特許技術。テンプとは規則正しい時刻を刻むためのパーツで、機械式時計の心臓部とも呼べる重要部品です。それを2つ搭載することで、高い精度を安定して刻むことが可能になっています。
5本目
ロイヤルオーク トゥールビヨン クロノグラフ オープンワーク
お値段4,000万円超え! 家が建つと言われる、まさに雲上ブランドの面目躍如たるプライスです。重力の影響を補正するトゥールビヨンと、クロノグラフという2つの複雑機能を積み、さらに『オーデマ ピゲ』の限定モデルともなると、このくらいしてしまう世界なのです。おいそれと購入はできないでしょうが、参考までに。
「ロイヤルオーク」以外も。『オーデマ ピゲ』のおすすめ
『オーデマ ピゲ』の中では、「ロイヤルオーク」が圧倒的な存在感を誇りますが、もちろん長い歴史を誇るブランドのこと、ほかにも当然傑作シリーズを持っています。ここで2つの有名シリーズを紹介します。
シリーズ1
ミレネリー
エレガントなオーバルケースで有名なのが「ミレネリー」です。オフセットされた針&インデックスと並んで、スケルトンから見えるテンプの美しさはまさに芸術品。実用品というより工芸品という方がふさわしいマスターピースです。このモデルは日本の時計師浜口尚大氏が設計した3D構造のムーブメントキャリバー4101を搭載しています。
シリーズ2
ジュール オーデマ
「ジュール オーデマ」は、創業者の1人であるジュール・オーデマ氏へのオマージュシリーズです。そのため、ブランド初期から手がけるコンプリケーションや、高級感あふれる装飾を施したものなど、『オーデマ ピゲ』の価値観を体現したモデルが多数リリースされています。こちらは、シンプルな3針モデルですが、美しく磨かれたケースや高精度のムーブメントなど、『オーデマ ピゲ』の高いクオリティを感じることができます。
2019年SIHHで発表された、『オーデマ ピゲ』の次世代機
まだ未発売ですが、これからの『オーデマ ピゲ』を語るうえで欠かせなくなるであろうモデルにも触れておきましょう。2019年のSIHHで新シリーズとして「コード 11.59 by オーデマ ピゲ」が発表されました。3針モデルの文字盤は極めてシンプルでオーセンティックですが、ミドルケースは「ロイヤルオーク」ばりの八角形、かなりエッジィなフォルムです。「ロイヤルオーク」に次ぐ看板モデルとして「オーデマ ピゲ」が投入した最新モデルは、2019年の時計界の一大トピックとなることが予想されます。
海外での取材経験も多数。時計専門ライター
夏目 文寛
出版社勤務時にはファッション誌、モノ情報誌の編集を15年にわたって従事。各雑誌で編集長を歴任し、2017年よりフリーのleather bagに。男の嗜好品に詳しく、特に腕時計は機械式の本場スイスをはじめとするヨーロッパに何度も取材に行くほど情熱を傾けている。興味のない人にもわかりやすく!がモットー。