汎用性満点。パラブーツのシャンボードが大人のコーデを後押しする
『パラブーツ』の定番として知られる「シャンボード」。質実剛健なデザインや、革靴ながらスニーカー以上に疲れないとも形容される履き心地の1足を徹底的に分析したい。まずは、大人の風格を足元から体現する『パラブーツ』について
フランスを代表するシューズブランド『パラブーツ』は、靴職人のレミー・リシャールポンヴェール氏によって創業した。それまで軍用靴やパリの上級顧客に向けて靴づくりを行っていた氏の技術が生かされたモノ作りは、現代までしっかりと受け継がれている。その代名詞ともいえるのが、ノルウェイジャンウェルト製法やグッドイヤーウェルト製法など伝統的な手作の継承。丈夫で、履き心地の良い靴を作るには欠かせない工程だ。
また、『パラブーツ』は世界で唯一、自社でラバーソールを製造しているブランドとしても有名。このラバーソールの素材となる、天然ゴムを輸入していたブラジルの港、パラ港にちなんでブランド名がつけられ他という逸話は、あまりにも有名だろう。耐久性にすぐれているのはもちろん、ベーシックで汎用性の高いデザインのものが多く、ファッション感度の高い層をはじめとして大人たちから絶大な支持を得ている。
『パラブーツ』を代表する「シャンボード」ってどんなモデル?
『パラブーツ』のラインアップのなかでも、特に人気が高いのが「シャンボード」。ベーシックな外羽根のUチップデザインで、カジュアルな着こなしにはもちろん、ジャケパンスタイルにも合わられる使い勝手の良さからビジネス・カジュアルの場を問わず愛されている。加えて登山靴で採用されるノルヴェイジャンウェルト製法で作られているため、ウェルト部分からの浸水を防ぎつつ、堅牢性に優れる点も多くの人々から支持を得ている理由である。
基本はアッパーに上質な“リスレザー”を使用。長い年月を経るとともに味わい深くエイジングしていく、オイル含有量の高い高品質な革だ。店頭に並んでいる『パラブーツ』のシューズが白く色づいているのは、この革に含まれるオイル分が表面に浮き出てきているため。また、撥水性が高いのも特徴。多少の汚れならふき取るだけで落とすことができる点もうれしい。とはいえそこまで水濡れを気にしなくていい現代では、ビジネス向けにキメの細かいカーフレザーや、革の宝石コードバンを落とし込んだ「シャンボード」なども需要が高まっている。何を選ぶかは、お好みで。
ソールには自社製の素材「パラテックス」を使用。天然ゴムを原料にしているため、適度な弾力により歩行中の足を守ってくれる。また、アッパーとソールはニ重ステッチで縫いつけられており、防水性も高い。
『パラブーツ』の「シャンボード」。初心者が押さえるべき定番&変わり種モデル
「シャンボード」にはノワール(黒)とニュイ(ネイビー)、カフェ、マロンのベーシックなカラーが定番として用意されている。それら基本モデルとともに、より高感度な素材違いのモデルも紹介していこう。
定番1
基本中の基本、1足目のノワール(黒)
革靴における基本の黒は、『パラブーツ』で、というよりはフランス語ではノワール(NOIR)と表記される。おろしたてはリスレザー特有のマットな光沢により一般的なブラックの革靴よりも明るい印象だが、履き込んで艶が生まれてくるとより深みのある黒に変化していく。丸みの帯びたトゥが特徴的なボリュームのあるシルエットながら、昨今のビジカジスタイルの流行により、スーツに合わせる人も増えてきたようだ。
定番2
履き回しの利く万能カラー、ニュイ(ネイビー)
『パラブーツ』のニュイは、“NUIT=夜”の名の通りブラックにほど近いダークネイビー。端正なUチップシルエットを引き立てるクリーンなムードにより、ビズシーンにおいても使い勝手良好だ。ノワールに続きドレスシューズの基本中の基本となるカラーなので、最初の1足にも最適と言える。カジュアルシーンにおいては、色落ちしたジーンズとのマッチングによりネイビーのグラデーションを楽しむ人も多いようだ。
定番3
クラシックかつ上品な空気を醸し出すマロン
クリーンなノワールに対し、程良いカジュアル感をまといたいならマロンがおすすめ。後述のカフェより明るめのブラウンは、「シャンボード」持ち前のボリューム感を強調し、より重厚感のある足元を作ってくれる。特に相性が良いのは、ジーンズやミリタリーパンツなどのカジュアルなもの。春においてはベージュチノと合わせて色の濃淡を楽しんだり、ブラウンと相性の良い濃紺ジーンズのお供とすると良いだろう。
定番4
落ち着いた色みでオンもオフもカバーするカフェ
マロンよりさらに色みを深めた、大人なブラウンを楽しめるのがカフェだ。シューレースもアッパーのカラーと揃えられているなど、フォーマル度に関してはノワール未満マロン以上と言ったところ。華やかなパーティシーンからオフのデニムカジュアルまで、幅広くカバーしてくれるバランスの良さは特筆モノだ。
変わり種1
コードバンモデルでよりドレス感を強調
リスレザーを履き込んで艶を出すのは大変、最初からドレッシーな「シャンボード」が欲しい! ……という方には、ホーウィン社製の最高級シェルコードバンを贅沢に使用したこちらのモデルもおすすめ。少々値は張るが、定番モデルには出せないコードバンならではの透明感のある深い光沢を楽しめる。まさに一生モノだ。モカ割れも宿命と捉え、タフに履きこなしたい。
変わり種2
素材に合わせて製法まで変えた、柔和な印象のスエードモデル
毛足の短い上質なスエードをアッパーに使用した、異素材モデルがこちら。落ち着いた印象のスエードに合わせ、ラストを通常の「シャンボード」よりも絞り、ソールを薄めのACTEMソールへと変更。さらにウェルト部分にボリュームの出るノルウェイジャンウェルト製法から堅牢ながら比較的すっきりと見えるグッドイヤーウェルト製法に切り替えるなど、『パラブーツ』のなみなみならぬモノ作りへのこだわりが垣間見える1足となっている。カラー展開も幅広いので、ネイビーやダークブラウンを選べばビズスタイルに落とし込むことも可能。
春夏にも、ビジネスにも。「シャンボード」の主戦場は秋冬カジュアルだけじゃない
ぼってりしたシルエットと厚みのあるオリジナルソールが作り出すシルエットは、確かに秋冬のコーディネートに似合う。だが、「シャンボード」の強みは深く考えずに合わせても着こなしにマッチしてしまうその汎用性の高さにある。季節・シーンを問わず、恐れずにどんどん取り入れて欲しい。ここではその好例を紹介していこう。
▼春夏:ライトなコーディネートに、存在感ある「シャンボード」でポイントメイク
カジュアルといえど、大人のファッションではだらしなさはご法度。リラックスしながらも品の良さをキープするために、シャンボードが足元からサポートしてくれる。
コーデ1
シンプルな着こなしに“かっちり感”をプラス
ラグラン袖の7分丈スウェットにアンクル丈のべイカーパンツを組み合わせた、シンプルな初夏のカジュアルスタイル。「シャンボード」を素足感覚で履くことでリラックス感を演出しつつ、持ち前の重厚さにより着こなしが軽くなり過ぎないよう帳尻を合わせた。
コーデ2
フレンチシックなワークスタイルを引き立てる、名脇役
タイドアップにベストを合わせた、フレンチシックなコーディネート。テーパードされたジーンズの絶妙な丈感とハンチングが、おしゃれ上級者の雰囲気を醸し出している。それら小物のクラシック感と「シャンボード」のマロンカラーが絶妙にマッチ。着こなしの個性を、効果的に高めている。
コーデ3
フレンチ香る白パンとの相性は言わずもがな
『オーシバル』のボーダーバスクシャツに白デニムの、フレンチマリン感溢れる初夏の着こなし。あえて半袖ではなく長袖を選ぶことで大人感を演出している点、ジーンズの裾を折り返すことで清涼感を漂わせている点は真似したいテクです。そこに合わせるのは、足元の引き締めと格上げを同時にこなしてくれるノワールの「シャンボード」。このドレスとカジュアルの間を縫うバランスは、“ならでは”でしょう。
▼秋冬:重たくなるコーディネート、その引き立て役に「シャンボード」はもってこい
トゥまで丸みを帯びた独自のシューズフォルムが、足元に唯一無二の存在感をもたらしてくれる「シャンボード」。ダウンやコートなどボリュームのあるアウターに頼りがちな秋冬においては、そのボリュームが足元で全体のシルエットのバランスを取ってくれるのだ。合わせる色次第では、万能とも言える着回し力を誇るその実力をチェックしていこう。
コーデ1
冬の代名詞。ダウンのボリューム感に負けない存在感
真冬の鉄板アウターといえば、ダウンジャケット。上半身にボリュームが出てしまう分ボトムスの合わせ方には注意を払う必要があるが、こちらのコーデではロールアップした細身のストレートジーンズと「シャンボード」で足元にポイントを置き、程良いバランスを作っている。アウトドアライクなコーデを、ノワール(黒)の引き締め効果で大人っぽくまとめている点にも注目。
コーデ2
冬のマリンコーデは革靴で引きしめて
ネイビーのボーダーカットソーと白パンで爽快な印象に仕上げた、真冬のマリンスタイル。セオリー通りに行けばノワールの「シャンボード」を合わせればよりまとまりが生まれるが、あえてカフェをセレクトすることでこなれたカジュアル感を加味している。
コーデ3
ワーク&アウトドアのラフなスタイルにも、「シャンボード」は好マッチ
フレンチだのマリンだのきれいめだの……、と並び立ててきたが、アメカジ色の強いワークスタイルに似合わないかというとそんなことはない。ナチュラルカラーのアランセーターにアーシーなグリーンのチノを合わせた暖かみのある装いに、濃茶の「シャンボード」が好相性だ。ボリュームのあるアウターとのバランスも、間違いない。
▼ビジネス:ジャケパンに「シャンボード」を取り入れたスタイリングサンプル
登山靴のディテールを備えつつも、カジュアルとフォーマルの橋渡しをしてくれるクリーンさが武器の「シャンボード」。フォーマルなセットアップスーツに合わせるには熟練のテクが必要だが、ジャケパンスタイルに落とし込むのなら実に容易だ。きちんと感を保ちつつ、着こなしに個性を与えてくれる。
コーデ1
爽やかな色あわせを、素材感とインナーで秋冬向けにシフト
主役はライトグレーのウインドウペンチェックジャケット。そこに白パンを合わせた初夏を思わせるマッチアップに、ケーブル編みも重厚なダークネイビーのニットを挿すことで一気に重厚な空気に。そこに合わせたのは、遠目には分かりづらいが質感の異なる3種のレザーを掛け合わせたスペシャルな「シャンボード」。ニットとの相乗効果でシックなムードを作りつつ、さり気ない遊び心を効かせている。
コーデ2
セットアップスーツに「シャンボード」を落とし込んだ着こなし巧者
品のあるセットアップスーツに、ボリューミーな「シャンボード」を違和感なく落とし込んだ上級者コーデ。ポイントとなるのは、太めに折り返したダブルの裾と、シューズとスラックスを大胆に分断する鮮やかなソックスだ。逆に細身の革靴を合わせてしまうとミスマッチに見えてしまう足元に、ノワールの「シャンボード」が長待ちよく鎮座している。
コーデ3
色落ちデニムが抜け感を表わす、今どきビジカジのドレスアップに
コットン素材&パッチポケットが程良いカジュアルさを醸し出すベージュジャケットが主役。黒のタートルカットソー、細身のウオッシュドジーンズを掛け合わせることでビジカジ感を加速させつつ、ノワールを足元に合わせることで誠実さも担保した。やや履き込んだような1足は、大人のこなれ感をも漂わせる。
「シャンボード」の宿命。“モカ割れ”とは割り切って付き合うべし
「シャンボード」と長く付き合う上で避けられないのが、“モカ割れ”と呼ばれるもの。モカシンの縫い合わせ部分、とくに足の指の付け根あたりが、アッパーの屈曲により開いてきてしまう現象だ。これは「シャンボード」の構造上必然的なものであり、いくら大事に履いていてもいずれモカ割れは起きる。だが否定的に捉えることはなく、大きくうねりが入り、濃淡が浮き出たアッパー同様これもまた味。いずれ革も柔らかくなれば馴染んでくるので、根気良く愛してあげることが肝要だ。
ブツ欲が動力源のモノ好き編集部員
牟田神 佑介
「Men’s JOKER」、「STREET JACK」と男性ファッション誌を経た後、腕時計誌の創刊に携わり現職。メンズ誌で7年間ジャンルレスに経験してきた背景を生かし、handbagでは主に腕時計や革靴、バッグなど革小物に関する記事を担当している。